春待月の一夜のこと
「遠慮しとく。恋愛映画は友達と観に行ったらいいだろ」

「雅功くんさ、映画好きを公言するなら恋愛映画だって観ないとダメでしょ」

「……別にダメってことはないだろ。好みなんて人それぞれなんだから。それに俺は別に、映画好きを公言してはいない。好きなのは島田の方だろ」


自分の家にあるテレビよりも岡嶋の家にある物の方が大きくて映像が綺麗だからと、しょっちゅう島田は岡嶋の家に映画を観にやって来るし、現に昨日もついさっきも、事あるごとに映画を観たがっている。


「あたし?あたしは別に普通だけど。特別好きってわけではないし」

「……いや、昨日からあんなに映画観たがってただろ。昨日に限らずいつもそうじゃないか」

「それは、……――――」

「なんだ?」


途中で言葉を止めて、しばし迷うように黙り込んだ島田は結局「なんでもない」と続きを言わなかった。


「なんでもないことないだろ。言いにくいことなのか?」


自分で訊いておいて、映画好きを公言しにくい理由ってなんだと脳内ツッコミが入る。
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