春待月の一夜のこと
「……あのローストビーフは衝撃だった。それまでは、いかにもーな、何の変哲もない、ちょっと味は濃いけどまあ普通に美味しいねくらいの料理ばっかりだったのに、なにあれ。塊で持ってきて切り分けてくれる感じも凄く盛り上がったし、味も抜群に美味しかった。お肉も、グレービーソースも、居酒屋とは思えない本格派だった」

「まあ、確かにあれは美味しかった。あの店を同窓会の会場に決めたのも、あのローストビーフ食べたさゆえだって聞いてる。凄く有名みたいだよ。ところで、ぐれいびーソースってなに?」


目を見張る真帆と、首を傾げる田辺。


「……知らないの?」

「知らないから訊いてるんだけど」


そうか、そうなのか、知らないということもあるのか。ローストビーフは一般的でも、ソースの名前までは一般的ではないと。
なるほどそうか、と一旦驚きを飲み込んで、真帆は田辺の疑問に答える。


「グレービーソースっていうのは、まあ簡単に言うと肉汁を使ったソースってこと。ローストビーフを焼いた時に肉汁出るでしょ、それを使って作ったソース」

「へー、肉から出た美味しい汁を使って作ってるんだから、そりゃソースも美味しいわけだ」

「お肉との相性もばっちりだしね」
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