春待月の一夜のこと
「し、しんこんって……!」

「あたし、その凄いマスターがいるお店に行きたい。出張ってあれでしょ、去年だったか一昨年だったかの春先に行ったやつのことでしょ?じゃあ記憶はまだ風化してないよね。お店の名前とか覚えてる?」

「ちょっと待て!その前に新婚って――」

「ああ、そうだね。旅行の前にまずは式の日取りを決めないとだね。あっ、その前にうちの親にも会いに来るか。まあ知らない仲じゃないんだし、そんなにかしこまらなくていいと思うけど」


違う、そうじゃない。そうじゃないし、とにもかくにもまず話を聞けと言いたいのだが、言ったところで島田は聞きやしない。


「雅功くんは、和装がいい?それとも白いタキシード?あたしは別にどっちでもいいんだよね。白無垢って言葉もなんかグッとくるし」


幼い頃はウエディングドレスやチャペルで式を挙げることへの夢を語っていたはずなのだが、岡嶋の知らないうちに島田は、白無垢にグッとくるようになっていたらしい。これもまた成長なのか。
いや待てそうじゃない。そんなところで島田の成長を感じてしみじみしている場合ではない。
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