春待月の一夜のこと

9

「今日のチーズオムレツ、いつも通りすっごく美味しかった」

「そりゃよかった」


食後のカフェオレを飲みながら、島田が上機嫌に語る。


「でも雅功くんの作るゆで卵も美味しいんだよね。黄身がとろっとろで。ああ、あと、忘れちゃいけないのが出汁巻き玉子だね。どうしてあんなにふわっふわのじゅわっじゅわなの?」

「さあな」


ゆで卵は半熟になる時間帯で茹でるのをやめればいいだけだし、出汁巻き玉子に関して言えば、出汁の分量などは適当だ。いつも目分量で、こんなもんでいいだろうといった具合で調味料を入れている。


「やっぱり料理が上手な人って、感覚で作れちゃうもんなんだろうね。あたしなんて、レシピ見ないとカレーも作れないのに」

「俺だって、一応箱の裏のレシピは見るぞ」


カレーやシチューの箱の裏に書いてあるレシピは、その通りに作るのが一番美味しく出来ると思っている。
なにせメーカーが載せているレシピなのだから、言わば公式レシピなのだから、その通りに作って不味いわけがないのだ。
だから岡嶋も、作り方を把握していても、作る前に箱の裏のレシピには目を通す。
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