春待月の一夜のこと

「へー、簡単。それならあたしにも出来そう」

「安心しろ、お湯が沸かせれば誰でも作れる」


隣に張り付く島田を上手いこと避けながら岡嶋が作っているのは、醤油味のインスタントラーメンにレトルトの中華丼の素をかけただけのお手軽あんかけラーメン。
普段であれば、ラーメンはインスタントでもあんかけは自作することが多いのだが、気力や体力がない時はこうしてインスタントに頼る。
休日なのに岡嶋の気力がない原因は、隣で「今度家でもやってみよー」と言いながらスマートフォンで撮影している島田にある。


「いいか、これ食ったら送っていくからな」

「ええー、明日あたし午後からの講義だし、もうちょっとゆっくりしてたいんですけど」

「俺は普通に朝から仕事なんだよ!」


これ以上島田にペースを乱されると、明日からの仕事に影響が出そうなのだ。


「わかった。じゃあ、お昼食べて、おやつも食べたら出発しよう」

「おいこら、勝手におやつを増やすな。昼飯食ったら帰るってさっき言ってただろうが」

「違うよ雅功くん。“お昼ご飯食べさせてくれなきゃ帰らない”って言ったんだよ。お昼食べたら帰るなんて一言も言ってない」


いつからこんなに小生意気になってしまったのか。
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