春待月の一夜のこと
“ふかまん”とは、レンジでチンするふかふか中華まんシリーズを島田流に略したもので、冷凍の中華まんが五つ入って一パックで売られているそれは、島田お気に入りの冬のおやつのため、岡嶋家の冷凍庫に常備されている。


「お昼が中華ならおやつも中華がよくない?」

「そこに拘りはない」

「変なとこには拘るくせに」


ぶーぶーと唇を尖らせながら、島田は自分の分の丼と箸を持って先にテーブルへと向かう。
岡嶋も自分用の丼にごま油を回しかけたあとで、箸を持ってそれに続いた。
ずっとつけっぱなしだったテレビでは、料理番組が流れている。


「あ、ねえねえ雅功くん、雅功くんの好きな映画にいつも出てるあの俳優さん、次の誕生日で還暦なんだってよ。知ってた?」

「マジか……え、還暦……?最近公開になった映画でバリバリアクションしてたよな?」


島田が指差す先で素晴らしい包丁捌きを見せる男性は、岡嶋が好きなアクション映画のシリーズに初回から出演し続けている俳優だ。
主役ではないのだが、渋くて味のある役どころは映画になくてはならない感じで、スタントを使わず自らアクションシーンをこなすことでも有名だった。
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