春待月の一夜のこと

10

「島田 美沙と言います。初めまして、雅功くん」


岡嶋が初めて島田に会ったのは、島田がまだ喋れもしない赤ちゃんの頃だった。
首が座った島田を連れて、島田の母が岡嶋家へと遊びにやって来た時が、初めての対面。
島田の母に赤ちゃんを紹介された時、岡嶋は少しばかり緊張していた。


「抱っこしてみる?」

「だっこ!?いやでも、落としたらこわいし……」

「大丈夫、支えててあげるから」


ほんわかした島田母に押される形で、岡嶋は初めて島田を抱っこした。
ずしっとした確かな重みと命の温かさ。小さな手の平は何を掴もうとしているのか、岡嶋の方へと伸ばされて、なにやら楽しそうに笑っている。
素直に、愛おしいと思った。この小さな命を、守ってあげたいと。


「これから、美沙のことをよろしくね、雅功くん」


言葉もなく、岡嶋はただこくこくと頷いた。緊張していたのもあるし、愛おしさに胸がいっぱいになったのもあって、言葉が出てこなかったのだ。
そんな岡嶋を見て、島田母は嬉しそうに、そしてどこか楽しそうに笑っていた。
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