春待月の一夜のこと
友達の中でというが、今話に出てきた友達は二人だけだし、クラスメートに聞けば他にもデートをしたことがない子がいるはずだ。“島田だけ”なんてことは絶対にない。
だがそれを、自分だけだと思い込んでしまっている島田に納得させるのは、とても難しい。


「……今時の小学生はませ過ぎじゃないか?」

「ふつうでしょ。紗枝ちゃんなんか、いっつもカレシと手をつないで帰ってるよ」


岡嶋が小学生だった時、女子と手を繋いで帰っている男子なんていなかったし、彼氏彼女なんて単語が話の中に出てくることもなかった。


「だからねー行こうよー!あたしも行きたいー!デートしたいー!」


がっしりと袖を掴まれて、渾身の力で左右に揺らされる。渾身と言っても小学生女子の力なんてたかが知れているが、お気に入りのTシャツを伸ばすのだけは勘弁してほしい。
そんなおませな小学生時代を過ぎ、中学生で思春期に入るとやや距離を置かれたりもして、高校生になってまた頻繁に家に遊びに来るようになり、大学生になった今もそれは変わらない。むしろ岡嶋が一人暮らしを始めてからは、訪ねてくる頻度が増えたくらいだ。
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