春待月の一夜のこと
「雅功くんの顔に、そろそろ諦めて覚悟を決めるしかないって書いてある。長かった、ようやくか」

「……いや、書いてないだろ」


付き合いが長いと、顔を見ただけで考えていることを読み取られてしまうから困る。


「もういい加減諦めなよ。人生諦めも肝心だよ」

「諦めたらそこで試合終了だって、某バスケットボール漫画の監督が言っていた……」

「誰よ」

「……知らないのか?」


カルチャーショックだった。
まあ確かに、世代が違うことを抜いても、島田は少女漫画はよく読むが、少年や青年漫画の類は読まないから知らないというのもあるだろう。
決して年代だけのせいではないはずなのだが、この有名な台詞を知らないということが、驚きを通り越してショックだった。


「……アニメにもなったんだぞ?」

「スポーツ系はあんまり興味ないから。ていうか、話を逸らすな」


逸らしたつもりはなかったのだが、確かにこのまま脱線しそうな流れではあった。島田に釘を刺されなければ、おそらく岡嶋はここから某バスケットボール漫画について語り出していたことだろう。
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