春待月の一夜のこと
いっただきまーす、と島田が手に取ったのは、岡嶋が苦戦しながら半分に割った方で、丸ままにかぶりつくよりも火傷しない。
ちゃっかりしてるよな……と内心呆れながら、岡嶋は丸い方を手に取って、割ることなくかぶりついた。
あんことバターの甘じょっぱさを、ほんのり甘いふかふかの生地が包み込む。美味しくて、そしてとても熱い。口を開閉させて、はふはふと熱を逃がす。


「思いっきりいったから、てっきり熱くないのかと思った」

「熱くないわけがないだろ。でも、中華まんはかぶりついた方が美味い」

「……食べ方で味って変わる?」

「気持ちの問題だ」


変なの、と正直過ぎる感想を貰ったが、別に気にしない。
ああ、このいつも通りの和やかな時間が続けばいいのに……と岡嶋が密かに願っていることなど知らず、島田は残り半分の中華まんを手に真面目ぶった顔で言い放つ。


「さて雅功くん、これが残りのあんバターまんです。あたしは間もなく食べ終わります。そしたら、問答無用で昨日の夜の話をするけど、いいよね」


全くもってよくないのだが、島田の言い方は最早質問ではなく、宣言になっている。
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