春待月の一夜のこと
「どうせなら、“甘い”じゃなく“旨い”って言ってほしいんですけど」


島田が不満げにそう返せば、岡嶋が可笑しそうにくすりと笑う。
なんとも穏やかな休日だ。温かいココアみたいにほっとする、いつも通りの休日。

こんな日々だって充分愛おしい。岡嶋が隣にいればそれだけで、何の変哲もない日常が色鮮やかになる。
でもそれだけではもうダメなのだ。そんな温かくも優しい日々は、永遠には続かないのだということに、気が付いてしまったから。

だから、もっと先に進みたい。この温かい日々を、これからも続いていくものにしたい。
岡嶋の家を、泊りに来る場所ではなく、帰ってくる場所にしたい。

ちびっとココアを飲んで、島田はふう……と息を吐く。多めに入れたマシュマロがとろりと溶けて、ココアと一緒に口に入る。
マシュマロが多い分、岡嶋のものよりも甘いはずのココアを、ちびちびと口に含む。

そうしてしばらく二人で、つけっぱなしのテレビを見るともなしに眺めながら、黙ってココアを飲む。
ややあって島田は、テレビの画面を見つめたままで口を開いた。
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