春待月の一夜のこと
「……まあ、雅功くんだもんな」


聞こえないくらいの声でぼそりと呟いて、それから大きく息を吐く。
もういっそ言ってしまおうか――考えながらココアをちびっと飲む。

いやでも言ってしまってから言わなきゃよかったと後悔はしたくない、と考えながらまたちびり。
その間も岡嶋は、何も言わずに島田の答えを待ってくれている。まあ若干、ちゃんと聞こえているのか?と言いたげな困惑の表情はしているが。


「あたし以外の女の人と一緒にいるの見て、不安になったって言ったら、雅功くんはどうする?」


岡嶋の困惑が、より一層強くなったのを表情から感じる。
ちょっと勘の働く人ならば、この問いで島田の胸の内がわかってしまいそうなものだが、もちろん岡嶋には伝わらない。


「どうするって……」


それだけ呟いて一旦口を閉じると、そこから考える時間に入る。先ほど自分も待ってもらった手前、ここで岡嶋を急かすことは出来ない。
しばしココアを飲みながら、ぼんやりとテレビを見つめていると


「どうするって質問の答えにはなってないかもしれないが、別に不安になることないぞってのが一応の答え」


岡嶋からそんな言葉が聞こえて、島田はテレビから視線を移して一瞬固まる。
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