春待月の一夜のこと
脱線に脱線を重ねながらも度々本題に戻るのだが、結局何も解決しないままにまた脱線する。
先ほどからこの調子で、時間ばかりが過ぎていた。


「……まさか、島田にこんなに悩まされる日が来るとは思わなかった」

「もう全てを受け入れたらいいよ。それが一番楽だよ」

「悪魔の囁きが聞こえる……」

「誰が悪魔だ」


頭を抱えてしまった岡嶋を横目に、島田は仕方なく冷めてきたココアを飲む。
大事に思うあまり悩んでいるのだと思っていたが、こんなに考え込まれると、本当は物凄く嫌なのでは?と不安になってくる。

全く同じではなくても、岡嶋だって少なからず自分と同じ気持ちを持っていると思っていたのだが、それは島田のとんでもない勘違いだったのだろうか。
時間が経つほどに不安になる心に、いやそんなわけはないと言い聞かせる。
長年一緒に過ごす間に培った岡嶋の心を読み取る力を、つまりは自分の直感を、島田は信じる。


「悩むより一歩踏み出してみようよ。大丈夫、なんとかなるよ」

「……なぜ俺は島田に励まされているんだ。なんか違うくないか」

「だって悩んでるから」
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