春待月の一夜のこと
それはそうだが……と呟く岡嶋に、このまま押し続ければ勝機が見えるだろうかと考え始めたところで、島田のスマートフォンがメッセージの受信を知らせて鳴った。
未だ頭を抱えて俯いている岡嶋から一旦視線を外して、島田はスマートフォンを手に取る。
メッセージの差出人は、母だった。


「ねえ雅功くん、お母さんがさ、今晩家で一緒に食べませんか?だって。カレー鍋をしようと思っているらしい」

「……カレー鍋?」


ようやく岡嶋が顔を上げる。


「そう。だから、来る時におつかいして来てくれると嬉しいな、だってさ。えっと欲しいものは、…………お鍋に入れて食べたい物、だって」

「相変わらずあれだな、……まあその、なんて言うか……“らしい”おつかいの依頼だな」

「そんな気を遣わなくても、“雑”もしくは“適当過ぎ”って言ってもいいよ」


“了解”と母に返信を打ち、ついでにうさぎが敬礼しているスタンプも送ったところで、島田は岡嶋の方を向いた。


「何時に出る?」


本当ならば、岡嶋特製のグラタンを夕飯に頂きたいところだったし、話の決着がつくまでは粘りたいところでもあったのだが、母からのおつかいが入ってしまったので致し方ない。グラタンはまたの機会に、話の続きは車の中でという手もある。
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