春待月の一夜のこと
「お前、俺の返事を聞かずに返信しただろ」

「え、来ないの?」

「行くけど、それでも一応確認しろよ」


行くならいいではないかと岡嶋の訴えを軽く受け流し、島田は早速最寄りのスーパーのチラシを検索する。


「あ、このスーパーきのこ類が安い。あと牛乳と卵も」

「もっと鍋の具材っぽいものは安くないのか?」

「それだったらこのスーパーじゃなくて、こっちかな。ほら、“今日は野菜がお買い得!”だってさ」

「どれ?」


岡嶋がぐっと身を寄せてきたので、島田はスマートフォンを近づければいいところ、「これ」と自らも身を寄せる。
顔を寄せ合って二人でスーパーのチラシを眺めるなんて、なんだか夫婦みたい。それも、新婚っぽさがあってとてもいい。なんて島田が内心喜んでいることも知らず、岡嶋は真剣な顔で画面に表示されたチラシを眺めている。


「確かにこっちの方が鍋の食材は安いな……でも、少し距離があるんだよな」

「どうせ車で行くんだし、距離とか関係なくない?」

「いいか島田、鍋ってのは買い物して帰ってすぐに食べられるわけじゃないんだぞ。総菜とはわけが違うんだ。食材を買って島田の家に行ってそれから煮ることを考えると、最初の店の方がいいんだよ」
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