春待月の一夜のこと
外まで人が並んではいるが、回転率がいいおかげで着実に前には進んで行く。それに、天気がいいのも幸いして、こうして外に立っていてもそれほど苦痛ではない。
まあ、後ろに並んでいる人物が、「それでそれで?それでどうなったんですか?」と鬱陶しいのは、やや苦痛ではあるが。


「別に、どうもこうもない」

「どうもこうもないことなんかないでしょ」

「……なんだって?」


最早何を言っているのかよくわからない。


「そんなことよりお前はどうなんだ、田中さん……だったか?あのクラスメイトの」


逃げるように話題を変えると、途端に田辺がぱあっと顔全体で喜びを表現しながら、さっと取り出したスマートフォンの画面を岡嶋に見せる。


「これ、岡嶋さんから貰った道具で田中さんが淹れてくれたコーヒーです!これ一杯淹れてもらうのにそりゃあもう苦労しまして。やっと淹れてもらった感動と達成感も相まって、物凄く美味しかったです」


画面に表示された写真には、岡嶋が道具と一緒に譲ったコーヒーカップが映っていて、カップをテーブルに置いてすぐ撮影したのか、引っ込めようとしている手がややぶれて端っこの方に映り込んでいた。
ぶれてはいるがどちらかというと華奢な感じがする手だったので、田辺のものではないと岡嶋は予想する。
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