春待月の一夜のこと
「それに俺だって、ちゃんと人は選んでますよ。誰彼構わず絡んでいるわけではありません」

「“それならよし”って言うわけないだろうが」


まったく……とため息をつきながら、岡嶋は動いた列の流れに従って前に進む。


「そんなことより岡嶋さん、結局年下の彼女とはどうなったんですか?もう責任取って結婚ですか?じゃあ部下代表のスピーチ考えとかないと……」

「おいちょっと待て」


この強引なまでに勝手に話を進めていく感じが、島田を思い起こさせる。


「お前まで勝手に話を進めるな」

「“まで”?……ああ、岡嶋さんの年下彼女はぐいぐい系って感じですもんね。ちなみに田中さんは、頑な系です」

「知るか!」


店の前だと思って抑えていたのに、ここに来て大きな声が出てしまい、他の順番待ちの人達に怪訝そうな顔でじろじろ見られるはめになった。


「でも、いいんじゃないですか?岡嶋さんってそういうのに疎そうだし、だったら彼女の方からぐいぐい来てくれた方が。あっ、“そういうの”というのは恋愛全般のことを指しているのであって、ベッドの上でのことを指しているわけではありません」

「いらんわそんな注釈」


この他人から視線を浴びまくっている時に、余計注目を集めるようなことを言わないで貰いたい。
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