春待月の一夜のこと
「そうだ岡嶋さん、今度みんなで遊びに行きましょうよ」

「……みんな?みんなって誰だ」

「俺と田中さんと、岡嶋さんと岡嶋さんの年下の奥様です」


テーブル脇のメニュー表で田辺の側頭部を思いっきり叩いてやろうかと思ったが、流石に他人の目があるのでやめておいた。


「絶対に嫌だ。なんで休日までお前と一緒にいなきゃいけないんだ」

「またまたそんなこと言って、俺のこと可愛い部下だなって思ってるくせに」


危うく口に含んだ水を吹き出すところだった。


「……俺がいつそんなこと言った」

「言ってないですけど、目が語ってます。それで、奥さんはまだ大学生でしたっけ?じゃあ俺達と休みが合いますかね。あっ、田中さんはどうだろう」

「おい、でかい声で“奥さんは大学生”とか言うな。そもそも、まだ奥さんじゃない!」


声を抑えて言い放ったところで、二人分のラーメンが運ばれてくる。
楽しみにしていたため意識を持っていかれそうになったが、聞こえてきた「“まだ”ってことは、その気はあるんじゃないですか」という笑みを含んだ台詞に、傾きかけた意識が一瞬で戻ってくる。
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