春待月の一夜のこと
「何言ってるんですか、今は食べる時でしょ。早くしないと伸びますよ」


いや、それは確かにそうだけれども。


「まあとりあえず、“お幸せに”ってことで。結婚式には忘れず呼んでくださいね。じゃあいただきまーす」

「なっ!!?」


それだけ漏らして目を白黒させる岡嶋の前で、田辺は美味しそうに麺を啜り、「あっつ!」と声を上げる。


「あ、でもこれ旨いですね。なんか女性が好きそうな味。……今度田中さんを連れてこようっと」


楽しそうにそう零して、田辺はまた麺を啜る。岡嶋はといえば、しばし衝撃から立ち直れずに呆然としていたが、このままでは麺が伸びると思い出し、一旦意識をラーメンに飛ばすことにした。
濃厚なクリーム系なのだけれど、ベースが塩なので後味があっさりとしていて食べやすい。温玉とブラックペッパーを混ぜれば洋風さが増して、クリーム系のパスタにぐっと近くなる。これは確かに、女性が好きそうな味だと思った。
あいつも、きっと好きだろうと思い浮かべた人のことは、間違っても田辺のようには漏らさない。連れてくる機会があったら、絶対に田辺と鉢合わせしないようにしようと内心誓ったことも。
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