春待月の一夜のこと
岡嶋としてはとても不本意なのだが、田辺は“仲良く”の部分をとても気に入っているらしく、笑われても全く動じることはない。むしろ「岡嶋さーん」とことさらじゃれついて来たりする。


「ちなみに岡嶋さん、何を買うか決まったんですか?まだなんだったら、俺に譲ってください。俺もう決まったんで」


ここで譲るのは癪なので、岡嶋は速攻で小銭を投入して、ホットのブラックコーヒーを押した。
出てきたコーヒーを取り出しながら、大人げないななんて思ったものの、今更である。


「俺もコーヒーにしようっと。えっと、甘いやつ、甘いやつ……」


ぶつぶつ言いながら上から順繰りに視線を動かしていった田辺は、「あっ」と声を漏らしたあとで、なぜかホットココアのボタンを押した。


「……おい、コーヒーって言わなかったか?」

「いやあ、ココアが目に入ったら急にココアの気分になったんで」


これが気分屋というものなのか。まあ飲むのは田辺だし、お金を出したのも田辺なので、なんだっていいけれど。
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