春待月の一夜のこと
「待って待って待って。え、そこ行っちゃう?そこにしちゃうの?そこはどうかなと……」

「うるっさい!!気が散るから黙ってて!」


それまで慎重に慎重にと進めていたのに、田辺のあまりの煩さに我慢出来なくなった真帆の勢いによって、順調に積みあがっていたジェンガはあっけなく崩れ去った。


「ほらね、だから言ったでしょ。田中さんが引っ張る度に物凄くぐらぐらしてたから教えたのに」

「田辺くんがうるさ過ぎるの!静かな中で集中してやってたらちゃんと引き抜けてた」

「ゲームは盛り上がってなんぼでしょうが」


悔しそうな真帆を横目に、田辺はテーブルの下に転がり落ちたジェンガを拾っていく。
数時間前、休日なので昼前にのんびり起床した田辺は、作るのが面倒なので何か食べに行こうと外に出て、“本日卵特売日!”ののぼりに惹かれて入ったスーパーで、なんと真帆に遭遇した。

同じように卵の特売に惹かれたらしい真帆との遭遇に「運命だね!」なんて一頻り騒いで、嫌がる真帆を連れて帰宅したのち、ジェンガに興じている。
このジェンガは、以前友人達と部屋飲みを開催した際、誰かが持ってきてそして忘れて行ったもので、全員酔っ払っていたので、持ち主が判明しないまま田辺の部屋に置き去りにされているものである。
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