春待月の一夜のこと
「あったー?」


部屋の方から聞こえる間延びしたのんきな田辺の声に、真帆はここではないのだと悟った。


「ああもう!冷蔵庫でもない玄関でもないって、じゃあどこに隠したのよ」

「だから、ランチしながら話そうよって言ってるじゃん。ピザとかどう?あっ、そういえば最近ネットで、オムライスが美味しいって店を見つけたんだよね。あそこ、デリバリーもやってるかな」


玄関から苛立ちと共に戻ってきた真帆は、スマートフォンを見ている田辺を睨んでから、盛大にため息をついて、一旦元の席に戻った。


「冷蔵庫でもない、玄関でもない、でも暖房の熱が当たらない場所……。いやそもそも、熱が当たらないとは言ってなくない?田辺くんの“大丈夫”なんて信用ならないし。ということは、やっぱりこの部屋に……」

「田中さん、ぶつぶつ言ってるところ悪いけど、この中から好きなの選んで」


向かい側から「はいこれ」とスマートフォンの画面を向けられて、真帆は顔を上げる。
そこには、美味しそうなオムライスの写真が並んでいた。


「え……なにこれ可愛い」


そう、しかも美味しそうなだけではなく、見た目が可愛らしいのである。
写真からでも伝わってくる、ふるふるっとしたオムレツが乗ったタイプのオムライス。そのオムレツ部分に、可愛らしい動物の焼き印が押されているのである。
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