春待月の一夜のこと
「ちなみに田辺くんは決まったの?」

「俺はこの期間限定一択。だって期間限定だよ?今を逃したら、次の期間が来るまで食べられないんだよ?」


その通りだから今迷っていると言うのに、余計に迷うようなことを言わないでほしい。


「田中さんは、どれで迷ってるの?あっ、全部か」

「ちょっと、勝手に決めないでよ」


確かに、全部と言えば全部なのだけれど、なかでも特に心惹かれているのは二つ、お店のお勧めデミグラスソースと、期間限定明太クリームソースである。


「二つまでは絞ったのに……ここからどうしても決められない」


一旦画面から視線を外してテーブルに突っ伏す真帆に、田辺は不思議そうに首を傾げる。


「その二択なんだったらさ、迷う必要なくない?」


はあ?とちょっぴりガラ悪く顔を上げると、「だってさ」と田辺。


「俺は期間限定にしたんだよ。だったら田中さんは、デミグラスでいいじゃん。俺のと半分こしたらいいんだから」


その発想はなかった。
ぽかんとして固まる真帆に、田辺は心底不思議そうに首を傾げる。


「てことで、その二つで頼んでいい?スープはどれにするの。ちなみに俺は、クラムチャウダー」


クリーム系にクリーム系を合わせに行くかとは思ったけれど、他人様の好みだとやかく言うまい。単純に突っ込むのが面倒だと言うのもあるけれど。
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