春待月の一夜のこと
「昨日“あんなこと”をした仲なのに、そんな冷たい言い方はあんまりじゃない?」

「っ……!?」


笑顔を近づけてこようとする田辺から逃げようと顔を後ろに引くと、洗面所のドアに思いっきり後頭部をぶつけた。
ベッドの上で壁にぶつけた時同様、いやそれよりは若干軽めのガンっという音が廊下に響く。


「いったぁ……」


後頭部を押さえて痛がる真帆と


「なんなのほんと。ギャグなの?」


お腹を抱えて笑う田辺。
誰のせいよ!と訴えてみても、田辺は素知らぬ顔で笑っている。


「あー、おっかしい。ほんと田中さんは笑わせてくれるよね。さて、早くしないとうどんが冷めるよ」


痛がる真帆をそこに残し、人でなしの田辺は先に部屋へと戻っていく。
最早すっぴんのことなど頭から吹っ飛んでしまっている真帆は、しばらくその背中を睨み付けたあとで、追いかけるように部屋に戻った。

テーブルの上には湯気の立つ丼が二つ、そしてベッドがあったはずの場所にはなぜか壁。


「……壁?」


テーブルの上より気になるその壁を、真帆は目を点にして見つめる。
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