春待月の一夜のこと
「というわけでですね、この顔になったわけです」

「また随分と思い切りよくやられたんだな」

「ほんとあんまりですよね。未来の夫をこんなに思いっきりぶっ叩くなんて」


ため息交じりの田辺の発言に、岡嶋は表情を窺うようにコーヒーを飲む。
しかし何を考えているのかさっぱりわからないので、手っ取り早く尋ねることにした。


「お前、本気で結婚するのか?その田中さんと」


田辺という男は、発言の真意がまるで読めないので、本気でも冗談のように聞こえるし、冗談でも本気のように聞こえるから厄介だ。
実際それで、岡嶋も嫌というほど振り回されている。


「本気じゃなかったら、ご両親にご挨拶に行った時、田中さんを貰えないじゃないですか。今度はお義父さんにぶん殴られますよ」


“お義父さん”呼びは気が早いんじゃないかと思ったが、そこを指摘するよりも、やはり本気かどうかの見極めがつかないところが気にかかる。
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