春待月の一夜のこと
「今のは俺が間違いました。岡嶋さんが仕事のことで悩んだりしませんよね」

「……どういう意味だ」


なんだかバカにされているような気がして睨み付けると、田辺は動じることなく


「だって岡嶋さんは、仕事に関しては悩むって言うより考えるって感じじゃないですか。あれこれ悩むより、何が最善かを考えて行動するっていうか。だから、岡嶋さんが仕事で悩むっていうのはなんか違うかなって」


どうやら、バカにしているわけではないらしい。


「岡嶋さん、仕事で失敗しても落ち込んだりしないですよね。落ち込むより、次にどうするべきか考えるでしょ」

「……普通じゃないのか?」

「岡嶋さんがそれを普通だと思うのは勝手ですけど、それを部下にも押し付けないでくださいね。特に今時の新入社員なんて、上司の普通を押し付けられたら速攻で辞めちゃいますよ」


そういうものなのか……?と首を傾げる岡嶋に、田辺は「だから」と続ける。


「仕事の悩みではない、となるとあとは一つしかないですよね」


にこっと笑った田辺に、岡嶋は物凄く嫌な予感がした。


「年下の彼女さんと喧嘩でもしました?」


続いた言葉に、予感が的中した岡嶋は思いっきり顔をしかめる。


「なんて顔してるんですか」

「お前がおかしなことを言うからだ」
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