春待月の一夜のこと
「それで、なんで喧嘩しちゃったんですか?」

「……喧嘩したなんて一言も言ってないだろ」

「でも悩みの原因は、彼女さんでしょ?」


岡嶋は、無言でカツ丼を口に運ぶ。
ここで上手く誤魔化すことが出来ればいいのだが、岡嶋はそれほど器用ではない。目の前の田辺のように、こういう時にのらりくらりとかわして逃げることが出来ないから、結果無言になり、それを肯定と取られてしまう。
まあ事実、睡眠にまで影響を及ぼしている考え事は、島田に関することなのだけれど。


「安心してください、岡嶋さん。岡嶋さんが年下の彼女と喧嘩して夜も眠れないなんてこと、誰にも言いませんから」

「……全く安心出来ないし、そもそも彼女じゃないし、喧嘩もしてない」


三連発で突っ込んだあと、岡嶋は深いため息をつく。
誰にも言うつもりなどなかったのだが、このままでは話すまで永遠に田辺に付きまとわれそうなので、仕方なく、渋々と、「笑ったり茶化したりしたら許さないからな」と念押ししてから、岡嶋は話し始めた。




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