春待月の一夜のこと
それは、土曜日の昼下がり。冷蔵庫に卵が一個と使いかけのモヤシしか入っていないことに気が付いた岡嶋は、食材の買い出しに出ていた。
車の後部座席には、食材でぱんぱんになった買い物袋が一つと、トイレットペーパーに箱ティッシュも積んである。

買い物を済ませたところで、さて帰るかと車のエンジンをかけようとした時、岡嶋はスーパーに併設するカフェの前に、見知った人物を見付けた。
スマートフォンに視線を落としたり、時折顔を上げて辺りを見回したりしているその人物は、他人の空似でなければ島田だ。

エンジンをかけようとしていた手を引っ込めて、岡嶋はその姿をしばし眺める。
どうやら、向こうは岡嶋の存在に気がついていないらしい。

スマートフォンを見たり、周りを見たり、落ち着かないその様子は、誰かと待ち合わせなのだろうか。
そんなことを考えて、そりゃそうかと思い直す。島田だって、休日に遊びに行く友達くらいいるだろう。なにも、休日ともなれば毎回岡嶋の家に入り浸っているわけではない。
そういう日が多いというだけで。
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