春待月の一夜のこと
「今思い出したから今言ってみた。だって、久しぶりに会った者同士としては避けて通れない話題でしょ?」


まあお決まりの話題ではあるけれど、避けて通ろうと思えば通れなくもないのでは?実際田辺は、今この瞬間までその話題を忘れていたわけだし。


「ちなみに俺はね、高校卒業後は大学に行ったんだけど、大学卒業する時就職先決まんなくてさ、しばらく大学の友達の先輩のお兄さんが経営してるラーメン屋でバイトさせてもらってたんだ。そこで今の会社の上司に出会って、うちに来ないかって誘ってもらって無事に就職したという流れ」


真帆は慎重にうどんを啜りながら、「ふーん」と相槌。


「なんか、ドラマみたいだね。そういうの、現実にも起こるものなんだ」

「これが起こるものなんだよ。就職決まるまでのとりあえずのバイトでも、一生懸命やってたかいがあったってことだね」


また「ふーん」と返しながら、真帆はネギを口に運ぶ。焼いた部分は香ばしく、お出汁が染みた部分はくたっとしていて、正直茹で過ぎたうどんよりこっちの方が美味しい。


「それで田中さんは?高校卒業したあとどうしてたの」
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