春待月の一夜のこと
ネギの思わぬ美味しさを噛みしめながら、真帆は考える。
これが仲のいい友達相手ならば特に考えることもなく話せるのだが、相手がただのクラスメイトとくれば話は別だ。
ネギを飲み込むまでたっぷりと考えたところで、なんだかもったいぶっているような間が空いてしまったのを埋めるように、真帆は早口で答えた。


「進学した後就職、以上」


うどんを持ち上げた状態で、田辺の動きが止まった。その顔は、面白いくらいにぽかーんとしている。


「……いや、あのさ、いくらなんでも適当過ぎない?」

「適当だなんて人聞きの悪い。簡潔と言って」

「どっちにしてもあんまりだよ。俺はもっとちゃんと教えたでしょ」

「あれはどっちかって言うと、田辺くんが勝手に喋り出したんだと思う」


真帆の方から、教えてほしいと頼んだ覚えはない。
なんなら、その流れでいくと真帆も必然的に教えなければいけなくなってしまうので、何も言わずにいて欲しかった。もっと別のどうでもいい話題を振って欲しかった。
< 29 / 409 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop