春待月の一夜のこと
「なんとなく、お客さんとそのお知り合いの方の関係性が見えたような気がします」


“仲がいい”と言外に含まれているような気がして、岡嶋の気恥ずかしさが増す。
普段言われ慣れている言葉ではあるけれど、今回は自分でそう思われるような空気を作ってしまった部分があるので、より恥ずかしい。
田辺め……と恨みの矛先をひとまず田辺に向けることで、岡嶋はこの恥ずかしさをどうにかやり過ごそうとする。


「いいですね、そういうご関係って。素敵だと思います」

「いや、全然素敵じゃないですよ。向こうは俺のことを小馬鹿にすることに全力を注いでいるようなふざけた奴なので」

「でも、嫌な方ではないし、嫌いにもなれないんですよね?」


自分でそう説明してしまった手前、そんなことはないとも言えず、岡嶋は難しい顔で黙り込む。
そんな岡嶋に向かって今度はマスターが


「愛情の裏返しなんだねー、きっと。その人は、お客さんのことが大好きなんだろうね」

「……大好き、ですか」


返答に困ってそう呟き返すと、マスターがにっこり笑って頷く。
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