春待月の一夜のこと
「その人、好きな子ほどイジメちゃうタイプなんじゃないですか?本来なら、好きな人には笑顔でいて欲しいって思うのかもしれないけど、それだけじゃなくって、泣き顔も困り顔も怒った顔すらも全部見たいから、ついつい意地悪しちゃう、みたいな」

「……それは、いい迷惑ですね。やられる方にしたら」


それにそういうのは、大概小学生男子がするものであって、いい年をした大人がすることではないように思うのだが。
まあ考えてみたら、田辺の精神年齢は小学生男子かもしかしたらそれ以下かもしれないので、そう考えると充分あり得る話なのかもしれない。
それに、今のマスターの話は、田辺を表現するのにとてもしっくりくる。


「そうだねー、やられる方にしたらねー。でもほら、色んな表情を見たいと思われるくらい好かれているんだってことで、大目に見てあげるのはどうです?」

「「いや、それはちょっと……」」


自分の声に重なる声が聞こえて、岡嶋は驚いて声のした方を見る。同じように、声を発した女性も驚いて岡嶋を見ていた。


「あっ、えっとすみません!つい、あの……」


そう言えば女性の方も、マイペースで自由な人に苦労させられた経験があるような話をしていたので、マスターの話が自分事のように思えたのかもしれない。
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