春待月の一夜のこと
「勝手にだなんて、俺は田中さんと旧交を温めようとしているのに」

「よく思い出して、田辺くん。私達は、旧交を温めるほどの仲でもなかったから」


本当に、ただのクラスメイトだった。三年間同じ教室で過ごしていただけの。
近くの席になったことは一度もない。挨拶をしたことくらいはあっただろうか?そもそもお互いの存在を、きっと昨日の同窓会まで忘れていたような、そんな薄っぺらい関係。

それを伝えたら、田辺は驚愕の表情で固まった。
その間に真帆は、残っていたうどんを、汁を残してあとは全て胃に収める。
意外に食べられるものだななんて吞気に思いながら、真帆は「ごちそうさまでした」と告げて立ち上がる。


「うどん、ありがとう。あと昨日は、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。私はこれで帰りますので、着替え、というか私の服を」


どこにあるのかときょろきょろする真帆の行く手を阻むように、「ちょっと待って!」と田辺が、両腕を広げてディフェンスの構えで立ち上がる。
そういえばこの男、高校の時はバスケ部だったような……。田辺ファンの友人から、試合での活躍ぶりを聞かされた覚えがある。
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