春待月の一夜のこと

「……知ろうとしてないから、知らないんでしょうね、きっと。今も、昔も」


呟いた真帆が、自嘲気味に笑う。
そんな真帆を見て、岡嶋は思う――知りたくないわけではないのだろうか。もしそうなら……。


「知ろうとしてみるのは、どうですか。今から」


岡嶋の言葉に、今度は真帆が首を傾げる。


「今から……田辺くんを、ですか？」


真帆の疑問に、岡嶋は頷きで答える。


「そんなに悪い奴じゃないなって思うかもしれないし、こんな奴嫌いだって思うかもしれない。わからなくてモヤモヤするなら、自分の気持ちをすっきりさせるために、あいつのことを知ろうとしてもいいんじゃないですか。案外、思っていたのと全然違う一面を知れるかもしれませんよ」


最後のその言葉に、真帆が反応を示す。


「思っていたのと違う一面ですか……。それが田辺くんの弱味になるような一面で、今度はそれで私が彼をおちょくって楽しめたら最高だなって、思ってしまいました」


ふふっと笑ったその顔は、ほんの少しの意地悪さを含んでいて、つられるように岡嶋も意地の悪い笑みを浮かべる。