春待月の一夜のこと
「田中さん、話はまだ終わってないよ。ていうか、途中だったじゃん」

「いやいや、今までのはうどんを食べている間の無言を埋めるための会話でしょ。ほら私、食べ終わったから」


丼を指差して見せるも、「残念、俺はまだです」と返される。


「お茶でも淹れるからさ、ゆっくりしていきなよ。それにほら、田中さんには、あやふやにはしておけない問題があるんじゃなかったっけ?」


ん?と首を傾げる真帆に、田辺がにっこり笑ってみせる。
この男は一体何を言っているんだとしばし険しい顔で考えていた真帆は、ややあって「あ……」と声を漏らして眉間の皺を緩めた。

自ら進んで緩めたというよりは、思い出したら眉間を含めて全身から力が抜けたと言った方が正しい。
力の抜けた真帆の体がすとんと椅子に戻るのを見て、田辺は楽しそうに笑って広げていた両腕を下ろす。


「お茶とは言ったけどお茶葉なんて家にはないし、紅茶のティーバッグもないから、コーヒーでいい?」

「……なんでもいいです」
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