春待月の一夜のこと
ああこの量のチーズは、明日以降に響いてくる……と頭の片隅で嘆く声を、美味しい!が勢いよく打ち消していく。
それを脳内で何度も繰り返しながら食べ進める真帆に、マスターが満足げな顔で口を開いた。


「田中ちゃんは、きっと大丈夫だよ。今度こそ、幸せな恋愛が出来るから」


急な言葉に驚いた真帆が顔を上げると、マスターがにこにこと笑っていた。


「そのためには、もう一度信じる勇気が必要だね。あと、先入観に捕らわれずにちゃんと相手を見てあげること」


その瞬間田辺の顔が浮かんだことにまた驚いて、真帆は思わず打ち消すように首を横に振る。


「まるで、そんな相手が私にいるような言い方ですね」

「だって、いるでしょー?」

「残念ながらいません」


再び田辺の顔が浮かびそうになったが、脳内でどうにかそれを打ち消す。
あれはただのはた迷惑な元クラスメイトであって、同窓会のあとに何かあったなんて話もきっと嘘で、真帆をからかって遊ぶだけの性格が悪い男だ。あれを恋愛対象とするのは無理がある。
知らぬ間に表情が険しくなってしまった真帆を見て、マスターが小さく笑みを零す。
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