春待月の一夜のこと
「……雅功くんは、ああいう人が好みなの?」

「だから、さっきから誰のことを言って――」


言っている途中で、ふと真帆の顔が頭に浮かぶ。
島田と店の外であった時、岡嶋が一緒にいたのは真帆だ。ということは、先ほどから島田が言っている“あの人”とは、真帆のことになる。


「島田と会った時に一緒にいた人なら、店員だぞ。制服着てただろ」

「店員だろうとなんだろうと、仲良くお喋りしながら飲んだことに変わりはないでしょ」


“仲良くお喋り”と表せるような楽しい話をしていたわけではないが、確かに田辺の話では盛り上がった。


「店員なんだから、お客と会話するのだって仕事の内だろ」

「その会話が楽しかったから、お酒が進んで飲み過ぎたんでしょ。それで、店の外でまで仲良さそうにお喋りして……」


そんなに仲が良さそうにしていただろうか。最後の最後まで、結局話題は田辺のことだった気がするので、あの男に振り回されている者同士、気が合ったというかシンパシーを感じたところはある。
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