春待月の一夜のこと
そんな気持ちで接していたのが、島田には仲が良さそうに見えたのだろうか。
でも、それは別に悪いことではないだろう。また来たいと思える店に出会えたのだから、店員と仲良くしておくに越したことはない。

島田のように、大学の友人達と飲み会だと大勢で飲む機会が、大人になると少なくなる。あっても、会社の飲み会くらいだ。友人達で集まる機会はそうそうない。
だからこそ、一人でも気軽に入れる店を見つけておきたいと思うのだが、きっとこの気持ちは島田にはまだわからないだろう。


「店員と仲良くして何がいけないんだ?」

「……別に、いけないなんて言ってないでしょ」

「じゃあ何で怒ってるんだ」

「だから、怒ってないってば」


そうは言っても、子供の頃からの付き合いがある岡嶋にはわかる。密かに発せられている島田の怒気が。


「ただ……なんか、嫌だなって思ったの」


よくわからない理屈を繰り返す島田に、岡嶋は思わずため息をつく。


「なんか嫌だって、そんな子供みたいなことを言われて、俺は一体どうしたらいいんだ。飲みに行っちゃいけないって言うのか?それとも、飲みに行っても誰とも会話するなって?」
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