春待月の一夜のこと
岡嶋の頭の中には、店の外で会った時、島田の隣に立っていた人物の姿が浮かんでいた。
年の頃はおそらく島田と同じくらいで、並んでいても何の違和感もない二人。

その現場を目撃したわけでもないのに、岡嶋の頭の中には、楽しそうに笑い合いながら歩く二人の姿が浮かんでいる。
その光景が、どうしようもなくモヤモヤする。

まだ何か言いたいのに、頭の中が段々とぐるぐるして来て、言いたいことが言葉にならない。
何度か口を開けたり閉じたりして、どうしようもなくなって荒っぽく息を吐く岡嶋に、島田が「……雅功、くん」とおずおずと声をかけた。


「あの……もしかしてさ、……嫉妬してる?」


島田の問いに、ぐるぐるしていた岡嶋の頭が一瞬にしてクリアになる。というより真っ白になる。


「……なん、て……?」


嫉妬?
先ほどのように言いたいことが渋滞しているわけではないのに、頭の中が再びぐるぐるする。
島田の放ったその言葉だけが、ぐるぐるぐるぐると頭の中を回っている。
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