春待月の一夜のこと
駅前公園は公園という名前がついているが、実際は公園っぽさがまるでない。
遊具の類はなく、あるのはベンチと東屋。それに、野外ライブが行えそうなステージと広いスペース。そして中心には噴水があって、その噴水に向かって公園の中を水路が走っている。

万が一子供が落ちても溺れない、足首ほどしかない水深と緩やかな流れで、夏場などは家族連れがよく水遊びをしている光景も見られる場所だ。
ただ今回真帆が目にしたのは、水遊びをする光景ではない。なにせ季節は冬だ。いくら今年が暖冬とは言っても真冬だ。

それに、冬場は凍ってしまうので水路に水は流れておらず、噴水も止まっている。ならば何に驚いたのかと言えば、公園内に所狭しと建てられた色とりどりのテント。
そしていたるところから風に乗って漂ってくるいい匂い。

目の前に広がる予想外の光景に、なんだこれはとしばし呆然と立ち尽くした真帆は、我に返ったところで入口付近に置かれたどでかい置き看板へと近付く。
そこには、“駅前公園冬まつり”の文字。


「……冬……まつり……」
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