春待月の一夜のこと
「ちなみに俺が食べたトマトのやつはね、トマトの酸っぱさと甘さの中にブラックペッパーががっつん!ってくる感じ。ピリッと辛いとかじゃないの。もうね、がっつん!って感じ。ブラックペッパーで殴られた的な」

「……田辺くんだってひとのこと言えないじゃない。なによ、ブラックペッパーで殴られたって」


でもまあ、なんとなく伝わってくるのが少し悔しい。


「これはお酒に合うねー。ホットワイン?俺初めて飲むんだけど、色んなスパイスが混じり合って一言では言い表せない複雑な味がして、すっごく大人って感じがする。ただの温めたワインじゃないんだね」

「そりゃそうだよー。それ、うちの特製だよー?」


田辺に答える間延びした声は横から聞こえ、二人してそちらに視線を向ける。


「はーい、トマトグラタンお待ちどー」


二人の視線を受けてにこっと笑みを浮かべたマスターは、テーブルの真ん中にスキレットを置いた。


「この鉄板熱いから、絶対に触らないでねー。食べ終わったらそこの返却口ってなってるとこに置いておいて。あとこれは、取り皿にどうぞー」
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