春待月の一夜のこと
丸ごと一個のトマトがスキレットにどーんと乗っているトマトグラタン。ヘタの付いた上の部分が蓋になっているようで、田辺がそれをそうっと持ち上げると、トマトの中に薄くピンクに色づいたホワイトソースがたっぷり入っていて、その上には焦げ目の付いたチーズが溢れんばかりに乗っている。
「すっごく美味しそう!ね?田中さん」
「そうだね」
「すっごく美味しいよー。うちの自信作だからね」
なんでもいいからさっさと持ち場に戻ってくれという真帆の願いも空しく、マスターは田辺とホットワインの話で盛り上がっている。
「へー、風邪の時なんかにいいんですか?」
「そうそう。たっぷりのハーブとかスパイスを赤ワインで煮込んでるから、ちょっと調子悪いなーって時に特にオススメー」
「ハーブも入ってるんだ。だからなんかこう……ちょっとすーっとするようないい香りがするんですね」
「キミって結構お酒はいける口ー?もしよかったら今度――」
ポケットに手を突っ込んだマスターが取り出したのは名刺大のカードで、瞬時にそれがショップカードだと気付いた真帆は、二人の話に割り込むようにして「田辺くん!」と声を上げた。
「すっごく美味しそう!ね?田中さん」
「そうだね」
「すっごく美味しいよー。うちの自信作だからね」
なんでもいいからさっさと持ち場に戻ってくれという真帆の願いも空しく、マスターは田辺とホットワインの話で盛り上がっている。
「へー、風邪の時なんかにいいんですか?」
「そうそう。たっぷりのハーブとかスパイスを赤ワインで煮込んでるから、ちょっと調子悪いなーって時に特にオススメー」
「ハーブも入ってるんだ。だからなんかこう……ちょっとすーっとするようないい香りがするんですね」
「キミって結構お酒はいける口ー?もしよかったら今度――」
ポケットに手を突っ込んだマスターが取り出したのは名刺大のカードで、瞬時にそれがショップカードだと気付いた真帆は、二人の話に割り込むようにして「田辺くん!」と声を上げた。