春待月の一夜のこと
「田中さん、俺達はいずれ結婚するんだよ。そうなるとさ、田中さんの交友関係だって気になるでしょ。特に異性との交遊関係は」


真面目な顔をしてそんなことを言う田辺に、真帆は言い返そうと咄嗟に口を開くが、ふと思い直して何も言わずに口を閉じる。
感情に任せて口を開くと、田辺を喜ばせてしまうという意味でろくなことがないし、目の前で楽しそうな反応をされるとまた手が出てしまいかねない。

流石に殴るのはよくないという話をつい先日、バーのお客として訪れた岡嶋としたばかりで、真帆だって反省していないわけではない。
むしろ反省したからこそ、今日は自分から田辺を誘い出したのだ。
まあ、予想外のお祭りがあって、未だに田辺を呼び出した本当の目的は果たせていないけれど。


「というわけで、あの人は誰?どういう知り合い?お店って何?」

「そんなことより田辺くん、ここもうちょっと行ったところにおでんを売ってるお店があるみたいよ。あとほら、たこ焼きだって。さっき食べたいって言ってたでしょ。それにほら、こっちは革製品のお店だって」


地図を指差して必死に気を逸らそうとする真帆に、田辺がため息を一つ。
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