春待月の一夜のこと

3

「ねえ、田辺くん」

「なに?田中さん」


キッチンとそれを隔てるカウンター越しという場所を変え、今度はテーブルについて向かい合う二人。
片方は神妙な顔をしていて、もう片方は笑顔を浮かべている。


「コーヒーももう間もなく飲み終わるってところなんだけど、話が全然進んでいない気がするんだよね」

「そうかな?俺としては、田中さんと楽しく昔話をしたり、近況を話したりしながら、旧交を温めているつもりだよ」

「問題はそこだと思う。そもそもに、私がしたい話と、田辺くんがしてくる話はずれている!」


そう、真帆が聞きたいのは、昨日同窓会が終わったあとで二人の間に何があったのかであって、高校卒業後に何をしていたのかとか、ましてや高校時代に問題児と呼ばれていたクラスの男子が、高校時代から付き合っていた彼女と結婚して、双子のパパになって、職業は警察官であることなど、どうでもいいのだ。


「いやあ、びっくりだよね、斉藤。あんないかにも遊び人って見た目しといて一途だったのもびっくりだし、警察にお世話になるどころか警察官になっちゃってたのもびっくりだし、双子のパパだよ?何が起こるかわからないものだよね、人生って」

「まあ、確かにね、びっくりだった。でも!!今その話はどうでもいいの!」
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