春待月の一夜のこと
「よくわかりません。あの人、よくわからないんです」


何をしにどこに行ったのかももちろんそうだが、田辺という男のことが、未だもって真帆にはちっともわからない。


「ひとが話し出そうとしたタイミングでいなくなるなんて、何考えてるんですかね」


もしくは、何も考えていないのか。
わざと話を遮るように立ち上がっていなくなったんだとすれば、相当に性格が悪い。
元より、田辺は性格がよろしくないとは思っているが。


「きっと色々考えてるんだよ、田中ちゃんのために」

「……私のため?」

「というのがまあ僕の予想ー」

「…………」


何を考えているのかわからないでいったら、マスターもそうだった。


「私のことを気にかけてくださるのはありがたいですけど、そんな暇があるんですか?」


何を考えているかわからない人の相手なんて、一人で充分だ。ここに田辺が戻って来て二人になってしまったら、今日の真帆は相手をしきれない。


「お客さんも引けたからねー。そろそろステージが始まるから、みんなそっちに行ってるんじゃないかな」

「ステージですか」
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