春待月の一夜のこと

「幸せを掴むコツは、笑顔を忘れないこと、それから他人を頼ること、あとはいつもそばにいてくれる人を大切にすることだよ。辛い時でも無理して笑えってことじゃないよ。笑える時には思いっきり笑えってこと。一人で抱え込まないで、周りに助けを求めること。それから、いつもそばにいてくれる人って案外貴重だからね。家族でも友達でも、そんな人がいたら大切にすること」


以上三点はテストに出るよー、なんておどけて、マスターは「それじゃあねー」とひらりと手を振って顔を引っ込める。
それと入れ違うようにして、息を切らせた田辺が戻ってきた。手に、ぱんぱんの紙袋を持って。


「……どうしたのそれ。てか、中身零れてるけど」


真帆が指差す先を慌てて振り返って確認した田辺は、落ちていたものを拾って照れ笑いしながら近付いてくる。
田辺の持つ紙袋がどこの物か、戻ってきた瞬間からわかっていた真帆だが、近付いてきたことによって印刷されたロゴがよく見えて、間違いないことが判明した。