春待月の一夜のこと
同窓会の最中にお酒を飲みながら話すのであれば、これ以上ない話題だった。
だが何度も言うが、真帆が知りたいのは田辺の近状でも、他のクラスメイト達の近状でもなく、“昨日の夜に何があったのか”それだけだ。


「……いい加減にしないと、私帰るからね」


田辺の顔に始終笑みが浮かんでいることから察するに、おそらく遊ばれている。


「ええー、もう帰るの?田中さん明日早いの?」

「明日は午後か――」

「そっか!じゃあ問題ないね。俺のことは心配せずにゆっくりしていきなよ」


食い気味に笑顔で言われてしまったが、真帆にしてみれば問題しかないし、元より田辺の心配などしていない。


「いやだから!明日仕事だから帰るって言ってるんじゃなくて、田辺くんが肝心な話をしないから帰るって言ってるの」

「肝心な話とは?」


一発ぶん殴れば、このムカつく笑顔が引っ込むだろうか。
いやでも流石に暴力に訴えるのはまずいかと、すんでのところで真帆は握りしめそうになった拳を押さえる。
平手ではなく拳が出そうになったあたりに、真帆の怒りの度合いが窺える。
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