春待月の一夜のこと
「つまり、あの夜私と田辺くんの間には何もなかったと」

「一緒のベッドで抱きしめ合って眠って、泣きじゃくる田中さんから求められたので一回だけキスはしたけどね」

「…………え、なにそれ」


ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、田辺の口から飛び出した衝撃的な言葉。しかも妙にリアルなところに嫌な予感がする。


「……それも、冗談なんでしょ?」


恐る恐る問いかける真帆に、田辺は「どう思う?」なんて問い返す。


「俺の一世一代の告白をさらっと流すような田中さんには、これ以上は教えてあげませーん」

「なにそれ!ていうか、一世一代はさすがに盛り過ぎでしょ」

「ご覧の通り俺って一途なタイプだからさ、告白なんて小学校の時以来なんだよね。あっ、ちなみにそれが初恋でね、相手は教育実習に来てた先生だった」

「一途……」


どこをどう見てもそうは思えないし、告白が小学生以来だなんてあまりにも疑わしい。


「田中さんが、全く俺を信用していない目をしている」

「よくわかったね」
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