春待月の一夜のこと
「もういい!家に帰って一人でゆっくり考える」

「まあまあ、そんな怒んないでよ」

「着替える!私の服は」


腹の立つ笑顔を無視して立ち上がり、真帆が辺りを見回していると


「服はね、どうかなあー、もう乾いてるかなあ。まだのような気がするけど」


田辺がわざとらしい思案顔で答える。


「昨日田中さんが着ていた余所行きのワンピースは、洗濯して干してあるんだよね。ああ、なんで洗濯したのかというと、昨日の夜田中さんが大胆にも――」

「へええー!!そうなんだ。それはわざわざどうもありがとう!」


“洗濯”という単語に反応して、顔に疑問符を浮かべてしまったのがよくなかった。
楽しそうに洗濯した訳を説明しようとする田辺を、真帆は不自然な大声で遮る。


「私、生乾きでも、なんなら濡れてても大丈夫だから!で、どこに干してあるの」


昨日の夜のことについては、最早田辺から聞き出すのは諦めた。この男、おちょくってくるばかりでちっとも話にならないのだ。
それならもう、家に帰って一人でじっくり考えて、昨日同窓会に出席していた友人に話を聞いたりして、動かぬ証拠を押さえてから再度田辺を問いただした方が早い気がする。
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