春待月の一夜のこと
「タクシー……？あ、あれお前が呼んでたのか」

「あたしが呼んだわけじゃないよ。でも、あの状態で歩いて帰って来られるのは心配だったから、絶対タクシーで帰してくださいってお願いしておいたの」

「……なるほど、それであんなに必死に押し込んで」

「えっと……その節は無理矢理すみませんでした」


頭を下げる真帆に、岡嶋が恐縮したように「ああいえ、大丈夫ですから」と。


「田中さんと岡嶋さんって、知り合い？」


じっと田辺に見つめられて、真帆は「知り合いというか……」と言葉を探す。別に言いづらい関係性なわけではなくて、ただ単にいい表現がぱっと思いつかなくて言い淀んだだけなのだが、どうやら田辺はそうは思わなかったようで。


「岡嶋さん、まさか年下の彼女がいながら田中さんにも手を出したんですか！」


とんでもないことを大声で言う。


「おまっ、何言って！！」

「ちょっと雅功くんどういうこと！」

「違うから！大きな声で変なこと言わないで」


慌てる岡嶋、立ち上がる島田、焦る真帆、そして険しい顔で岡嶋から視線を外さない田辺。
< 393 / 409 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop